特殊技術

鋳造技術のコンサルティング・サービスを主業務としながら、次世代技術を展開

[表紙解説]

 

Mgハロー」について

(株)I2C技研 糸藤春喜

【黒鉛球状化理論】

球状黒鉛鋳鉄は,今や,産業界を支える欠くことの出来ない材料として,不動の地位を獲得しています.しかし,発明されて半世紀近くも経過していたにも拘らず,「なぜ,Mg添加により黒鉛が球状化するか」は,謎のままとなっていました.国内外の学者が諸説を提唱し実証を試みたものの,決定的な証明が示されず,現場のものづくりとも掛離れていたためです.

【高精度なEPMAの登場】

この混沌とした時代は,マッピング分析装置付きのEPMA(電子線マイクロ分析器;Electron Probe Micro Analyzer)の出現によって動き始めました.当初のEPMAは,微量域の検出精度が望めず,定量データの表示が困難でした.しかし,マッピング分析装置の誕生で,残留Mgの様な微量域でも,定量データの表示が示が可能になったのです.

Mgハローの検出】

球状黒鉛鋳鉄の残留Mgは,金属Mgと介在物Mgの形態で存在します.これらの分布をマッピング分析装置付きEPMAにより分析し,データ化したのが表紙の資料です.Mg濃度が高い箇所ほど明るい色付けがしてあります.金属Mgは,殆ど全ての球状黒鉛粒の周囲にリング状(黄色)に分布しています.この状態が太陽の金環日食(halo)に酷似していることから, Mgハローと命名しました.Mg介在物は,主に,凝固の終盤に形成される領域 (黒鉛粒間)に分布しています.一方,Mg介在物は,いくつかの球状黒鉛粒の中にも存在しています.しかし,それらの黒鉛粒にも,Mgハローが存在しています.

【必然の結果】

1989年当時,この発見は,世界初です.しかし,偶然ではありません.黒鉛球状化理論「サイト説」の観点から,「Mgが、どの様な形態で,何処に,どの位の量が存在しているか」予測していた最中,その証明を可能ならしめるマッピング分析装置付きEPMAが登場し,必然の結果を生みだしたのです.手前味噌とならぬ様に,標準倍率(100倍)としたことにも意義があります.

【理論に基づくものづくり

サイト説では,球状化処理時に気化したMgが気泡となり,その中に黒鉛が晶出した結果,球状黒鉛が形成されるとしています.Mgハローは,そのMg気泡の痕跡と捉えています.溶湯処理,フェーディング,凝固に絡む現場現象を, 金属MgやMg気泡をイメージしながら,整理して見ては如何でしょうか.